映画「ア・ホーマンス」を称賛する(ネタバレあり)
ひょんなことから最近見直した。
ネットの感想を見ると賛否両論だが、私にとってはたいへん素晴らしい映画なので擁護してみたいと思う。
石橋凌がいい
ラスト近くでオールバックから髪を下ろすシーンがいい。ゴリラーマンの藤本がリーゼントでなくなる場面はここからきたのではないか。
「こっちは頭とられてるのによ!向こうの頭とらねぇで何がヤクザだ!」と激高していたが、この侠気が「キッズリターン」の金子賢に引き継がれていくのだな。
片桐竜次がいい
松葉づえをついた甲高い声のヤクザが異様な存在感。普通に考えて足が不自由だったら戦闘能力は低いだろうが、周りが怯えていることで逆に観ている側にその凄みを想像させる。
剛州がいい
覚せい剤で女をつるような、抗争から真っ先に逃げ出しそうな情けなさがよく出ている。そのリアリティが周りのカッコよさや強さを説得力を持って際立たたせている。
手塚理美がいい
丸顔で品があってかわいい。水商売気がなくて、ヤクザと真逆の空気感。石橋凌もそれは後ろ髪を引かれるだろう。
ポール牧がいい
片桐竜次とともに怪演。カミソリを使う場面をはじめ、どの場面も極めて印象的。
松田優作がいい
あの主人公は松田優作の肉体があればこそ。あのジャンパーをふつうの人が
着てたらとてもダサいだろう。
何気ない身のこなしでアクションシーンを成立させる。
ラスト6分がひどい
昔、劇場で観たとき、この場面で客席から明らかに失笑が起こった。俺も愕然とした。
ここまでこれだけカッコいい映画を見せてきて、なんじゃこりゃ、と思った。
画面が180度回転するどころでない捻じくれ具合だった。
すべてが台無しではないか。
せめて主人公の力は超自然的能力とか、曖昧にしておけばいいじゃないか、と。
しかし、前情報なしでこの場面に立ち会えたのは得難い映画体験だった。
松田優作はあえてこの場面をいれることにより、この映画にメタ的な視点を導入し、観客に安心感を与えず、映画を相対化し、忘れがたいものにしようと企んだのだ、とアクロバティックに考えてみよう。そうしよう。
音楽がいい
オープニングの緊張感のあるベースラインから始まって、ラストはARBの名曲After'45。
「刑事物語」の「唇をかみしめて」に匹敵するエンディングソング。
まあ、俺の擁護なんて松田優作からすれば「てめえの知ったことか」だろうけど。