読み歩き亭

歩いて、片づけて、寝ています。

石垣のりこ個人演説会の感想

2019参院選に宮城選挙区から石垣のりこさんが立候補している。

彼女は仙台のFM局dateFMのアナウンサーだった。

運転中によく聞いていた。

音楽を流し、リスナーからのメールを読む、普通の昼間の帯番組。

しかし、その普通の中に何か惹きつけるものがあり、番組の時間にできるだけ合わせて車に乗るようにしたりしていた。

 


安住淳 2019年5月26日 石垣のりこ 事務所開き

今年の4月、参院選立候補のニュースを新聞で読む。

勇気があるな、と思った。

ラジオパーソナリティとして十分人気があるのだ。それをなげうって選挙に出ることは、常識的な損得勘定からすればあり得ない選択だ。

まして宮城選挙区には自民党世襲3代目3期当選の現職男性議員がいる。

 

その圧倒的不利を覆そうとする少年マンガ的面白さもあり、その日からTwitterなどをフォローするようになった。

そしてまた彼女の発信力が素晴らしかった。

ラジオはFM局なので報道番組もなく、政治的なイシューはほとんど扱っていなかったと記憶する。それを聞いていた者としては、どこにこれほど膨大な言葉を隠していたのかと思うほどの言説の束であった。

新聞における候補者アンケートでも実に豊かな文章で返答しているし、Twitterやインタビューでの反応もこの春出馬を決めた人とは思えぬ鋭さである。

もしかすると、およそ20年のリスナーとの対話の中で醸造された思いが今爆発しているのかもしれない。

 

そんなこんなで先日近所の市民センターで個人演説会があるということを知る。

演説会に行くのは初めてだ。

土足でいいのか、靴を脱ぐのかなど、戸惑いながら3階の会場にたどり着く。

定員50人くらいの会場でほぼ満席。

「前のほうへどうぞ」というスタッフに促され最前列に座る。

もし石垣さんが当選したら、翌朝の新聞見出しは「石垣のりこえる」かなぁ、などと考えながら待っていた。

石垣さんは予定時刻を20分ほど遅れて到着。

 

休む間もなく、出馬の経緯、立候補にかける思い、現在の政治に対する見解と自分の目指す政策について語った。

さすがはアナウンサー、話もうまい。

平均年齢60歳くらいに見える聴衆を前に穏やかな雰囲気で会は進んだ。

 

適度な熱をもって滞りなく語られる声が1度だけ、リズムを崩した。

それはラジオの仕事を止めたことに話がさしかかった時だった。

「リスナーさんのことを思い出すと涙が出ます。番組も中途半端に終わらせてしまい、申し訳なく思ったのですが・・」と声を詰まらせた。

 

ああそうか、この人は職を辞してこの選挙に挑んだのだ、と改めて思った。

その仕事は十分にやりがいのあるもので、人間的な温かいつながりをもったものでもあったのだ。

水道橋博士が言っていた猪木イズム、「自分が天国にいて、憎いやつが地獄にいるとしたら、わざわざ天国を捨てて地獄にぶん殴りにいく、そんなエネルギーのこと」を思い出していたのは会場で俺一人だったろうけど、正直、心が動かされた。

ラジオの最終回を特等席で聞いた気分だった。

 

石垣さんは「選挙に出るとなったら、もう放送には戻れません」と言っていたが、そんなものだろうか。

立川談志は議員を辞めた後も落語をしていたし、仙台では世之介が立候補したけど、そのあとラジオもしていたと思う。

ともあれ、まずは国会で全国に向かってトークしてきてもらいたい。

 

今日の河北新報によれば、宮城選挙区は両陣営が一歩も譲らぬ激しい競り合いだそうだ。

ロッキーとアポロがボコボコ殴り合っている13ラウンドといったところだ。

新聞、テレビでは参院選は盛り上がってないとよく言うけれど、ほんとかね。

俺の中では今までで一番面白いけどな。

宮城を面白くしてくれた石垣さんと、選挙権を万人にもたらしてくれた先人たちに感謝する。

 


荻昌弘・映画解説 「ロッキー」