読み歩き亭

歩いて、片づけて、寝ています。

そういえば昔は本に作者の住所が書いてあった

「ショージ君のゴキゲン日記」東海林さだお文藝春秋)を読む

 手元にあるのは昭和49年の第1刷。巻末の著者略歴に現住所が書いてある。かつては珍しいことではなかったが、現代ではありえないだろう。

 筒井康隆のエッセイで、読者が家に尋ねてきていろいろ大変というエピソードがあったことも思い出した。東海林さだおはともかく、筒井康隆とその読者の対面は大変だろうなと思うのは偏見か。

デパートも盛況だった

 「百貨店の孤独」の項で高度経済成長期のデパートの繁盛ぶりが活写されている。史上最高の6兆円のボーナスが支給され、人々がお歳暮を買わんとデパートに殺到し、最上階の食堂は家族連れの阿鼻叫喚となる。俺もこの空気は少し思い出せる。

珍しいロマンチシズム

 多くの場合、東海林さだおはリアリストとして対象に向き合い、いわばツッコミを入れる。名所旧跡を訪れても、そこに集う人々の欲望や下心を描写し笑いに変える。そして、東海林さだお自身にもその欲望や下心はあり、そのことが読む側に安心感をあたえる。「正しさ」や「美しさ」の建前を本音の視点から柔らかくひっくり返すわけだ。

 しかし、本書「結婚への重い扉」の項で、テレビ局主催の婚活パーティーを取材するが最後にそのような形での結婚に対して違和感を表明する。そこにはいつもの諧謔を超えたわずかな感情の揺れが見える。

 恋愛と結婚に関しては、東海林さだおは本当はロマンチストなのかもしれない。

装幀 和田誠

 筆者の本業は漫画家であり、装幀も本人がしている本も多いが、和田誠の装幀もすばらしい。東海林さだおの目を黒点4つで表現しているが、すごい発想。

ショージ君のゴキゲン日記

ショージ君のゴキゲン日記