読み歩き亭

歩いて、片づけて、寝ています。

本屋で後ろから「俺も焼きが回ったな」と聞こえてきた

 振り返ると大学生くらいの男性客2人連れだった。

 岸本佐知子著「気になる部分」に出てくるヨコスカさんを思い出した。

 ヨコスカさんは「さりとて」という言葉に異常に感じやすく、聞くと床をのたうち回る。

 のたうち回りはしなかったが、俺も本屋で少しゾクッとした。この気分はあまり人には伝わらないか。

気にしない人は気にしない

 「気になる部分」には気にしなくても全然かまわない話がつまっている。

 多くの人がシュワルツェネッガーを"シュワルツネッガー”と発音しているとか、ロールシャッハ検査の絵がどれも骨盤に見えるとか、根掘り葉掘りの"葉掘り”とは何か、とか。

わかる部分とわからない部分

 岸本佐知子の書く話の大半に親近感がわく。

 「エレベーター」と「エスカレーター」は今でもとっさに言おうとすると混乱するのもわかるし、塩と砂糖を混ぜるとプラスマイナスゼロで味がなくなるのではないかという実験もしたことがある。

 しかしヨコスカさんの他、多くの奇天烈な作者の知人の話や地面からさかさまに昇っていくカミナリを見た話になると、だんだん親近感ではすまなくなる。

 作者の現実と空想、エッセイと小説がしだいに混濁してくる。

 気軽に読めて可笑しいというだけではない、幻想や、ほんのすこしの狂気を匂わせる奇妙な味の本だった。

気になる部分

気になる部分